委任
委任とは当事者の一方(委任者)が法律行為をすることを相手方(受任者)に委託する契約のことを言います。
たとえば、離婚をしたいと考えている人(委任者)が弁護士さん(受任者)に離婚に関する訴訟代理をお願いする場合などです。
なお、委任で委託するのはあくまで法律行為です。
法律行為以外の行為を委託しても委任にはなりませんので注意して下さい。
ちなみに法律行為以外の行為を委託することを準委任と言います。
受任者の義務及び責任
委任契約の受任者には以下のような義務及び責任が課されています。
受任者の注意義務
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負うこととされています。(善管注意義務)
善管注意義務は、平たく言えば「その道のプロに要求されるレベルの注意義務」ということになります。
(自己の財産におけるのと同一の注意義務よりは、重いものになります。)
受任者の報告義務
受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければなりません。
委任事務の処理状況やその経過及び結果は当然、委任者にとって重大な関心事項であるため、受任者にこのような報告義務を課しているわけです。
金銭その他の引渡し・移転義務
受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければなりません。
受け取った金銭その他の物は、委任者のものだからです。
また、受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利も委任者に移転しなければなりません。
受任者の金銭消費についての責任
受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したとき(要するに使い込みをしたとき)は、消費した金額を返還するのはもちろんのこと、消費した日以後の利息を支払わなければなりません。
この場合、損害が発生していれば、賠償責任も負うことになります。
受任者の権利
委任契約の受任者の権利については、以下のような規定が置かれています。
受任者の報酬
委任契約は原則、無償契約ですが、特約で有償契約とすることもできます。
この場合、受任者は、原則として、委任事務を履行した後でなければ、報酬を請求することができません。
なお、委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の途中で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができます。
受任者の費用前払請求権
委任事務を処理するために費用が必要なときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければなりません。
受任者の費用等償還請求権
受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後における利息の償還を請求することができます。
また、受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができます。
いったん、受任者が弁済した後に委任者に請求するより、この方がやり方としてスマートだからです。
この場合に、その債務が、まだ弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を提供させることができます。
さらに受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができます。
法律行為を委託するという委任契約の性質を考えれば、受任者が過失なく損害を受ける可能性も決して低くはないので、その場合に備えて、このような規定を置いているわけです。
委任の終了等
委任の終了に関連する規定としては以下のようなものがあります。
委任の終了事由
委任は、
1.委任者又は受任者の死亡
2.委任者又は受任者の破産
3.受任者についての後見開始の審判
といった事由によって終了します。
なお、委任者についての後見開始の審判が委任の終了事由となっていない点に注意して下さい。
委任者が後見開始の審判を受けた場合、益々、本人が法律行為を自分で行うことが難しくなっており、委任契約を存続させる方が、本人のためになるからです。
委任の解除
委任契約は、当事者がいつでもその解除をすることができます。
委任契約は高度な信頼関係に基づく契約であり、その信頼関係が損なわれれば、いつでも解除できる方が良いからです。
なお、当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたとき(たとえば、裁判の前日になって受任者である弁護士が委任契約を解除したときなど)は、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければなりません。
ただし、やむを得ない事由があったとき(先の例で言えば受任者である弁護士が事故に合って、長期の入院をせざるを得なくなったときなど)は、損害を賠償することなく委任契約を解除することができます。
委任終了後の受任者の義務
委任が終了した場合に、急迫の事情があるときは、受任者等は、委任者等が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならないとされています。
委任契約が終了したからといって、受任者が、急に法律事務を全部、放り出してしまうと、委任者に何らかの損害が発生する可能性があるからです。
最近のコメント