同時履行の抗弁権
同時履行の抗弁権とは双務契約(契約成立によって両当事者が債務を負うことになる契約)の当事者の一方が、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる権利のことを言います。
たとえば7月10日に不動産の引渡しと売買代金の支払いを行うという内容売買契約が締結された場合に、7月10日になったからといって、売主が不動産の引渡しをしようともせずに売買代金の支払いを請求してきたとしても、買主としては「不動産の引渡しと同時でないと売買代金を支払うことはできませんよ。」と突っぱねることができるということです。
ただし、相手方の債務が弁済期にないとき(売買契約の目的物の引渡し時期について数か月先にするなどの特約がある場合など)は、同時履行の抗弁権を主張することはできません。
相手方の債務が弁済期にない以上、こちらの債務と同時に履行させることなど、できるはずがないからです。
同時履行の抗弁権が主張できることによる効果
同時履行の抗弁権を主張できるかぎり、弁済期に債務の履行をしなかったとしても違法な状態になることはありません。
つまり、債務不履行責任を問われることはないということです。
なお、こちら側から契約の相手方の債務不履行責任を問おうとする場合には、まず、弁済の提供をすることによって(現実に弁済することまでは必要ありません。)、相手方の有する同時履行の抗弁権を封じる必要があります。
相手方が同時履行の抗弁権を主張できれば、そもそも債務不履行の状態にはないことになるからです。
同時履行の抗弁権の主張が認められる場合
同時履行の抗弁権は、双務契約の履行の場合以外に、公平の原則から以下のような場合にもその主張が認められています。
契約の解除や取消しがあった場合の原状回復義務の履行
契約が解除されたり、取消されたりした場合、契約は最初からなかったことになりますので、両当事者は、それぞれ受け取っているものを相手に返還したりする原状回復義務を負うことになります。
この原状回復義務の履行についても同時履行の抗弁権の主張が認められています。
債務の弁済と受取証書の交付
債務が弁済された場合、債権者は債務者に対して受取証書(領収書のようなもの)の交付をしなければなりませんが、この場合の債務の弁済と受取証書の交付についても同時履行の抗弁権の主張が認められています。
なお、債務の弁済と債権証書の交付については、債務の弁済が先履行となります。
同時履行の抗弁権の主張が認められない場合
以下のような場合には同時履行の抗弁権の主張が認められていません。
賃貸借契約に基づく敷金の返還と建物の明渡し
敷金は建物の明渡しが完了するまでに賃借人が賃貸人に負うことになる全ての債務を担保するものです。
そのため敷金返還請求権は、賃借人による建物の明渡しがあってはじめて発生するものとされています。
つまり、敷金の返還と建物の明渡しでは、建物の明渡しが先に履行されるべきものであるということです。
被担保債権の弁済と抵当権抹消登記
抵当権は被担保債権が弁済によって消滅すると、被担保債権に対する付従性により消滅するものとされています。
つまり、被担保債権が消滅してはじめて、抵当権は消滅することになるわけです。
そのため、被担保債権の弁済と抵当権抹消登記では被担保債権の弁済が先履行とされています。
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